「梅王繚乱」の会田薫先生の新連載になります。前作は幕末を舞台としたお話でしたが、今回の舞台は現代。しかしながら、描かれるのは仏像男子と、前作以上に歴史や古めかしさを感じさせるテーマとなっています。それでは物語のあらましをご紹介しましょう。
主人公は拍子に描かれているメガネの男の子・無我。高校生の彼が打ち込んでいるのは、仏像作り。彼と幼なじみで、正反対の明るい性格の持ち主・零雄についていくようにして、小さい頃から仏像づくりに励んできました。しかし零雄の方は、高校生になり気づいてきたのか、最近仏像はそっちのけでギターに夢中。そんな中、「力を出し惜しみしている。零雄に遠慮するな。」と先生から指摘され臨んだ作品展で零雄を出し抜き賞を獲得。一気にその才能を開花させはじめるのでした。それまで仏像作りに関して無我を自分より下に見ていた零雄は、その様子を目の当たりにし、心境の変化が……というお話。
この力強い線描で、真剣な表情を描く感じはまさに会田薫先生の作品という感じ。読み応えがあります。
無我の方が才能があるかというとそうではなく、無我も零雄も同じく才能に恵まれているという設定に見えます。現代が舞台ですが、モデルとなっているのは運慶と快慶という2人の仏師であり、それぞれ並び立つ才能の持ち主でありながら、その作風は陰と陽、動と静と形容できるように正反対。2つの才能が、互いに刺激し合いながら、高校時代という多感な時期を経て伸びていく様子が描かれるんじゃないかな、と。時にぶつかり合い、時に分かち合い、仏像作りというち一風変わった設定ながら、そこにはしっかりと青春の息吹だとか、スポ根ものに通じる真剣さみたいなものが落とし込まれています。
主人公の無我は最近流行りのメガネ主人公で、寡黙で朴訥とした雰囲気の真面目な少年。心から仏像作りを愛し、仏像に向き合っているタイプの男の子です。作風は物静かでクラシカルな感じ。そんな彼を仏像づくりの世界に引き込んだのが、零雄なのですが、彼はいわゆるお調子者系の男の子で、クラスでも中心的な存在。イケメンというわけではなく、三枚目タイプですかね。手先が器用でダイナミックな作品を彫り上げるのですが、我が出すぎてしまうのが玉にキズです。ギターに気持ちが向くと思いきや、無我に抜かれるという危機感を感じると、そのプライドからか再度仏像作りに打ち込むというあたり、なんだかんだ仏像づくりが好きなんだなぁ、と。
それまで下に見ていた者に抜かれることの葛藤。
芸術分野における才能のぶつかり合いというと、flowers連載の「僕のジョバンニ」あたりを思い起こさせますね。スポーツものと異なり直接対決での動の勝負をわかりやすく描きづらい世界を扱う際は、内面描写が鍵となってくるため、男性ものよりも女性ものに一日の長があるように感じており、本作も期待したいところ。あちらは才能に歴然とした差がありますが、こちらは比肩しているので、毛色は若干異なります。どちらかというと「群青にサイレン」の方が近いのかな。
【感想まとめ】
お仕事ものかと思いきや、才能ぶつかり合う青春もので地味ながらとてもおもしろかったです。オススメ。
作品DATA
■著者:会田薫
■出版社:講談社
■レーベル:KC ITAN
■掲載誌:ITAN
■既刊1巻
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